鉄筋コンクリート造一部木造 地上2階
港区立伝統文化交流館は、築80年の港区指定有形文化財「旧協働会館」を公共施設として保存及び利活用するため、曳家を伴う保存整備を行ったプロジェクトである。「旧協働会館」は、昭和11年、現在の東京都港区芝浦の地に、「置屋」「料亭」「待合」の「三業」を取りまとめて芸者の取次や遊興費の清算などをする芝浦花柳界の「見番」として建てられた現存する都内唯一の木造の見番である。利活用のための施設整備として、1)文化財としての保存と安全・安心の確保、2)地域の歴史の継承や地域活動拠点の整備、3)各種法令への対応の3点を行った。
1)文化財としての価値を保全するため、使用可能な部材は極力残し、交換が必要となると想定される部材は、取り替えを前提とした。既存建物は、建物の安全性の確保のために耐震補強を行う必要があった。また、建物を安心して利用するために、段差解消や手すりの設置、誰でもトイレや昇降機の整備などが必要となった。
2)地域の歴史と文化の保存・発信、住民同士のコミュ二ティ形成や交流の促進、地域のにぎわい創出の拠点となる施設の主要室は、旧協働会館の歴史的価値を象徴し、伝統文化に関する講座や落語などの公演を行う「百畳敷」と呼ばれる「交流の間」とした。そのほか、建物やその周辺の移り変わりなどを写真や映像を用いて照会する「展示室」・「情報コーナー」、コーヒーなどの飲み物、軽食や甘味を提供する「憩いの間」と呼ばれる福祉喫茶を整備した。
3)耐震補強として建物の下部に新たな基礎と耐圧盤を整備するため、約2m建物を持ち上げた。揚屋工事が完了し、基礎が施工された後、改めて鉄骨レールを設置し、地上から約80センチにジャッキダウンした。その後、西に約8メートル建物を慎重に移動させ、曳家工事は完了した。増築棟には、既存建物に設置が困難である昇降機と車いすスロープを設置した。福祉玄関やだれでもトイレなど、公共施設として必要な新たな機能を設置した。増築棟の外壁位置は既存棟と揃えるなど、創建時の街並みを継承している。伝統的な庇や開口部の位置などの寸法・形態を継承し、既存棟と増築棟とを一体的な建物としつつもどこが文化財建物で、どの箇所が増築棟でありどこが改変箇所であるかが認識できるように既存棟との違いを明確にする計画とした。
今回の保存整備工事は、多くの技術を融合したリニューアルとなっている。この建物がこれからも価値を増し続け、人々に親しまれる建物となり、この街にしっとりとした情感をもたらすことを期待している。